喫煙者のすゝめ

 

身近な人が喫煙者だったことを、最近知った。

 

世間では煙草は体に害だとか肺がこんなに真っ黒になるんですよとか副流煙がどうだとか悪く言われているけれど、私は喫煙者が大好きだ。もちろん歩き煙草は嫌いだし、新宿東口の喫煙所も好きではないけれど、でも仲良い人、特に絶対喫煙者ではないと勝手に思い込んでいた人たちが実はスモーカーだった時の少しの衝撃、その後しばらくして襲ってくる魅力と憧れ、そして本人たちの煙草を吸う時の仕草がとてつもなく好きで、尊いのである。というわけで、今日は私の周りにいるスモーカーを紹介します。好きなので。

 

①バイト先の店長

ショートカットでまつ毛が長くて、お肌がツルピカなデキル女。スモーカーだと知ったのは、バイト先の飲み会の日。着席してしばらくして、気づいたら煙草を吸っていた。アメリカンスピリットの黄緑だった。(注:私はこの銘柄しか知らない)

私はこの人がものすごく好きだ。性格が最高に良い。なんだか上から目線で書いてしまっているけれど、本当に良い人なのだ。面倒みがよくて、アルバイトの私にもちゃんと敬語を使ってくれて、なにかミスしたら完璧にフォローしつつ丁寧に、かつ理論的に指摘する。決して理不尽に怒ったり、社員やバイトの前で陰口を言わず、そして仕事終わりに一緒に帰るときはとっても気さくに話してくれる。喋るときの声も大きすぎず小さすぎずで、話す内容も面白い。たまにお茶目。煙草の吸い方も好き。吸っている時の横顔が、働いている時には決して見せない、店長とかそういう肩書のない、一人の人間としての魅力を出していた。

 

②バイト先の先輩

社員さん。あいみょんにめちゃめちゃ似ていて、濃いリップを付けていて、いい匂いの香水をつけていて、オシャレ。ライブに行くのと古着屋さん巡りが趣味(これは想像です)。

店長と同じく、初めて知ったのは飲み会の時だった。この方もアメリカンスピリット(水色?濃い緑?)を吸っていて、店長と「やっぱりコレですよね~!」と話していた気がする。この人は、私が働き始めた時からずっと、ひそかに憧れていた人だ。女子校の先輩だったら絶対ファンクラブが存在しているタイプ。それか共学だったら、男友達とつるんで「購買行こうよ~!」とか肩組んでそうなタイプ。(知らんけど)

この人は、私の喫煙者のイメージ通りに吸ってくれる人だった。古着と、ウルフカットの黒髪と、煙草。この組み合わせがその人にピッタリで、この人以上のこの人になれる人間はいないのだと思った。煙草を持つ手が美しかった。

 

③才谷さん(仮名)

私のお兄ちゃん的な存在。見た目は完全に落ち武者で、5~6歳年上の社会人。一緒に船に乗った人の一人で、航海日程の初めの方にスモーカーだと知った。甲板で、真っ青な海と抜けるような空の下で、細い煙を吐いていた。私の前で吸う時に「吸ってええ?」と聞いてくれるので、その時点で惚れる。たまに火をつけてから「あれごめん、しょーこって煙草大丈夫やっけ?」と聞いてくるのも良い。ちなみに関西弁です。周りに配慮するスモーカーって素晴らしいですよね。やっぱり、居酒屋とかで何も言わずにいきなり煙草取り出して吸うよりかは、ちゃんと許可を取って吸ってくれる方が、どこかにいるであろう嫌煙者にも、私の心の準備的な意味でも、ありがたいです(いきなり煙草吸われたら、興奮して会話どころではなくなるので)。

最近恋人ができたらしい。おめでとう!彼女の前で吸う時も、ちゃんと許可取ってから吸ってね。

 

 ④バンちゃん(仮名)

船で一緒だった、ドレッドヘアーで190㎝くらいある、見た目は超いかついソロモン人。目つきが鋭くて初対面で怖気づいてしまったけれど、仲良くなると一緒にダンスしてくれたり写真を撮ってくれたり(こいつはプロカメラマンなのだ)そして何よりも優しいし、笑顔が素敵、そしてかなり重度のヘビースモーカー。バンちゃんを見つけたかったら、甲板(喫煙所)に出るとたいていいる。「それ、美味しいの?」って聞くと「いる?」と聞いてくる。私は喫煙者が好きで煙草自体にあまり興味は無いから断ったけれど、日本とソロモン諸島、喫煙者と非喫煙者、文化も言語も、年齢も性別も趣味も何もかもが違うバンちゃんが何を考えながら煙草を吸っているのか、少しでも分かりたかった。一口もらえばよかったな。

 

⑤ファーちゃん(仮名)

私のファーストシガレットをくれた友達。ギリシャ人、美人、歌が上手い。船のプログラムの前半で一緒の部屋で暮らしていた。シャワーを浴びながら歌う曲は私にはわからない言語だったけれど、船に揺られながら、ベッドに寝っ転がりながら聴く彼女の歌声は、夏を思い出させた。そういえば、ギリシャ版America's Got Talent(Greece's Got Talentとでもいうのだろうか)に出場したことがあるらしい。なんだって?

夜中、星を見に甲板に出たら彼女が煙草を吸っていた。巻き煙草だった。人生で初めて生で巻き煙草を見たので異様に興奮し、そして私はこれを吸うのか、、、と、慣れた手つきで小さな紙きれで草を巻くファーちゃんを好奇の目でじっと観察していたが、後々巻き煙草は煙草界の中で一番手ごろな価格のものだと知った。それ自体は一口しかもらわなかったので、あまり記憶にない。美味しいのか、煙たいのか、苦いのか、薄いのか、全くわからないが、人生の階段を一段登った気がした。煙草を吸ったことで人生が変わることはないが、今までの自分とは少し違った自分になれたのではないか、という錯覚に陥った。

 

だから、私は喫煙者が好きなのです。

 

それでは。

 

追記 酔っぱらいながら書きました。