匂いの記憶
かなり仲良い好きな子が、一番嫌いな人と同じ匂いがした。
正確には、その2人は、同じ柔軟剤を使っていた。
殺したくなった。
いやもちろん、嫌いな方を。
その人自体はまあ生きていても良いけど、ソイツの記憶を消したい。
本当にどこまでも、罪深いヤツだ。
ついでにその柔軟剤も廃盤になってほしい。
匂いの記憶というのはものすごい。
正直、視覚はまあ置いといて、聴覚触覚味覚をはるかに上回る影響力を持っていると思う。
ひとつエピソードがある。
前の投稿で述べたように、私は小学校の時某旧ソ連国に住んでいたのだが、毎朝登校時にスクールバスを使用していた。
カラフルなキリル文字が書かれた真っ黄色のバスで、いつも泥まみれだった。中は黒いシートで、ちょっと埃っぽい、ザ・乗り物、みたいな匂いがした。
時は流れ、そんなスクールバスのことは忘れ去り、大学一年になった夏に私はフランスを観光で訪れた。
空港から市内まで、バスを使って移動した。ロワシーバス、みたいな名前だった気がする。
このバスの匂いが、なんと、小学校のスクールバスの匂いと全く一緒だったのだ。
十数年間忘れていた、脳みその片隅に落ちていた、あの黄色くて汚くてエアコンがなくて夏は暑くて冬は寒くて埃っぽい黒いシートのあのスクールバス!
そのフランスのバスの匂いをひと嗅ぎしただけで、こんなにもありありと思い出すとは、全く予想していなかった。
しかし思い返すと、匂いは、対象が何であれ、相手の好き嫌いを決める重要なポイントだとおもう。
例えば、夏の渋谷の匂い。
これは、小学校で使っていた雑巾の匂いがする。最悪だ。
もともと渋谷という街があまり好きではないことも相まって、渋谷は近寄りがたい街になってしまった。とても便利だけど。
例えば、乾きたての枕カバーの匂い。
お日様の匂いって、こんなに最高なのですね!
そのまま布団をかぶって、嫌なことは全部忘れて絵を描いたり本を読んだり、もちろん寝たりしたくなる。
例を挙げていけばきりがないが、好きな匂いは美容院のシャンプー、真夏のシーブリーズ、古本、ミント、焼き鮭、などなど。
嫌いな匂いは運動部の下駄箱前、雨上がりの曇りの日の空気、バイト先の食洗器などなど。
とりあえず、匂いと記憶は密接な関係にあると思う。
だからみんな香水をつけるのかなぁ。
好きな相手に、自分のことを覚えてもらいたくて。
「あの子、いい匂いじゃん」と思われたくて。
そんなもんつけなくても、みんなすでに魅力的ですよ!
香水は加減が難しい。
付けたことないけど。
良い匂いのシャンプー使って、柔軟剤もしてて、匂いのするお化粧品使って、更に香水振りまくことは、嗅覚的死と同義だと思う。何事もやりすぎは禁物だ。
逆効果のことが多いから、みんな気をつけてください。
有川浩の『植物図鑑』に、
「恋人には花の名前を教える。毎年それが咲く季節になったら、嫌でも自分のこと思い出すでしょ」
みたいなことが書いてあった。
匂いも、同じように使えるのではないだろうか。
自分の匂い、好きなものの匂い、一緒に行った場所の匂い、色々な匂いと記憶を結び付けてしまおうじゃないか!
それで、その匂いを嗅いだ時、毎度毎度、思い出してもらうのだ!
最高じゃん。
それでは。